このページの要点
- 研修の実施は準委任を主軸にし、テキスト・動画・報告書の納品だけを請負的な部分として切り出す。成果は保証せず、顧客の協力義務を書く。
- 既存の教材は受託者に留保して利用を許諾し、新しく作った成果物だけを支払い完了時に移す。27条・28条を特掲し、録画は原則禁止にする。
- 助成金を使う研修では、実態に基づく記録の提供と調査への協力を書く。不支給は報酬に影響させず、申請書の作成・提出の代行は業務に含めない。
- 受講者名簿は委託として整理して講師への受渡しと事故の報告を決め、顧客都合の中止は時期に応じた段階と準備業務の報酬で書く。
結論:研修の受注契約は、準委任を主軸に「納めるもの」だけを切り出す
研修会社や講師が、顧客企業から研修を受注するときの契約は、「研修を行う」ことが中心です。受講者がどれだけ理解し、行動を変え、売上を上げたかは、受講者本人と顧客企業の取組みに左右され、研修を行う側が保証できるものではありません。そこで、契約全体の性質を、仕事の完成を約束する請負ではなく、事務を処理することを約束する準委任(民法656条)に寄せて書き、テキストや報告書のように「納めるもの」だけを、請負的な部分として切り出す構成が合理的です。
書面の作り方が曖昧だと、後で次のような争いになります。
- 「成約率を上げる」と書いたため、上がらなかったときに債務不履行だと言われる。
- 研修資料やテキストを、顧客が社内の別の部署や関連会社の研修に使い回す。研修の録画を、受講しなかった社員に見せる。
- 助成金を使う研修で、助成金が支給されなかったとして、報酬の支払いを断られる。
- 顧客から受け取った受講者の名簿やアンケートが、講師に渡る経路で漏れる。
- 顧客の都合で直前に研修が中止になったのに、準備にかけた時間の報酬が出ない。
このページでは、研修会社・講師が受注する側の立場から、顧客企業との研修業務委託契約書に入れておきたい事項を、上の五つの順に整理します。講師と研修会社の間の契約(再委託を受ける講師との契約)は講師業務委託契約書、顧客企業が申込みをする側の規約(申込法人と参加者の位置づけ、キャンセル料の基準)は企業研修・法人向け講座で扱っているので、ここでは顧客企業と個別に結ぶ委託契約の書き方に絞ります。
契約の性質を決める:準委任、請負、その混在
請負は、当事者の一方が仕事を完成することを約束し、相手方がその結果に対して報酬を支払うことを約束する契約です(民法632条)。準委任は、法律行為でない事務の委託で、委任の規定が準用されます(民法656条)。受任者は、特約がなければ報酬を請求できず(民法648条1項)、報酬は事務を履行した後でなければ請求できません(同条2項)。期間によって報酬を定めたときは、期間の経過後に請求できます。事務の成果に対して報酬を払う約束をした場合は、その成果の引渡しと同時に支払います(民法648条の2第1項)。委任が履行の中途で終了したときは、既にした履行の割合に応じて報酬を請求でき(民法648条3項2号)、成果型の場合の割合報酬は、請負の規定(民法634条)が準用されます(民法648条の2第2項)。
| 業務 | 型 | 報酬の考え方 | 書いておくこと |
|---|---|---|---|
| 講義・演習・個別フィードバックなど、研修を実施する業務 | 準委任 | 実施した回数、時間または期間に応じて払う。成果は保証しない | 実施の方法、回数、時間、対応時間の範囲。回数に上限のない対応は、対象範囲と品質の基準を定める |
| 研修テキスト、台本、動画教材の作成 | 請負的な部分 | 納品したときに払う。検収の手続を決める | 納品の形式、期限、検収の方法、修正の回数と範囲 |
| 研修の結果報告書、受講者の理解度の評価 | 請負的な部分(または準委任) | 報告書の提出をもって履行とする | 記載する項目、提出期限、評価の基準が主観的なものでないこと |
| 事前の打合せ、研修設計、実施後のフォロー | 準委任 | 準備の業務として、時間または一括で払う | 実施前の準備の報酬を、研修が中止になっても払う旨 |
表は整理の例です。実際の契約では、業務ごとに型を割り当て、型に応じた報酬と責任を別々に書きます。
両者が混ざった契約書では、後の争いで、成果が出なかったときに「債務不履行だ」「善管注意義務は尽くした」と主張が噛み合わなくなります。準委任の部分では、研修を実施するにあたって善良な管理者の注意を払う義務を負う、成果は保証しない、と書き、請負的な部分では、納品物の仕様と検収を書く、という形に分解しておくと、責任の線が見えます。
書き方の例(一般的な例) 成果の書き方と、成果を保証しない条項
目的の書き方
「本業務の目的は、受託者の指導により、委託者の成約率を向上させることとする。」
「本業務の目的は、委託者の営業担当者に対し、所定の内容の研修を実施し、実施後の状況を報告することとする。受託者は、成約率その他の業績、受講者の理解度や行動の変化を保証しない。」
ねらい目的は研修を実施する事務に置き、業績の向上は目標や期待として扱う。履行したかどうかを判定できる書き方にする。
顧客の協力
(協力についての定めがない)
「委託者は、受講者の参加の確保、必要な情報の提供、研修で示した内容の実践と報告に協力する。委託者の協力が得られないことにより業務の履行が遅れ、又は十分な成果が得られなかったときは、受託者は責任を負わない。」
ねらい成果の前提は顧客側の取組みにもある。委任者の側にも信義則上の協力が求められるが、明文にしておけば主張しやすい。
契約書に定義条項を置き、「本業務」「研修資料」「個別フィードバック」「研修動画」「成果物」といった言葉の意味をそろえておくことも大切です。定義のない言葉は、当事者それぞれの理解で読まれ、「それは本業務に含まれない」「含まれる前提で契約した」という争いの種になります。
検収と、請負的な部分の責任
請負的な納品物には、検収の条項を置きます。検収を重くしすぎると、受託者が内容の当否を保証したような形になります。研修テキストのような内容は、顧客の側の事情に左右され、受託者が内容の最終的な当否を決められないことがあります。そこで、受領と形式の確認にとどめ、明らかな不備の指摘に限ること、一定の期間内に指摘がなければ検収を終えたものとみなすことを書きます。引き渡した成果物が契約の内容に適合しない場合の責任は、請負の規定に従い、不適合を知った時から1年以内に通知しないと追完の請求などができなくなります(民法637条1項)。この期間を契約書で短くまたは明確にしておくことは、受託者にとって意味があります。
責任の範囲、解除、その他の定め
研修という無形の役務に対し、損害賠償が青天井になる契約は、受注する側のリスクです。賠償の範囲を直接かつ通常の損害に限り、上限を報酬の額(または一定の額)とし、故意または重過失の場合は除く、という定めを置きます。賠償額を予定する定めは有効ですが(民法420条1項)、履行の請求や解除を妨げません(同条2項)。解除は、催告による解除(民法541条)と、催告によらない解除(民法542条)が原則ですが、守秘義務や個人情報の取扱いの違反のように、直ちに関係を断ちたい事由は、契約書で即時解除事由として列挙しておきます。準拠法と合意管轄、反社会的勢力の排除、契約終了後も効力が残る条項(秘密保持、知的財産、個人情報)も、顧客が大きな会社である場合には求められることが多い項目です。
研修資料・テキスト・動画の著作権と、利用の範囲
研修で使う資料は、講師が長年かけて作った教材であることが少なくありません。顧客企業が研修を受けるとき、資料を渡すのは当然ですが、渡した資料の著作権まで顧客に移るわけではありません。この点を契約書に書かないと、顧客が社内の他部署や関連会社の研修にそのまま使い回し、講師は報酬を受け取らないまま教材が広がります。
著作者は、著作権(複製権、翻案権など)と著作者人格権を享有します(著作権法17条1項)。著作権は全部または一部を譲渡できますが(同法61条1項)、譲渡の契約で翻案権等(同法27条・28条の権利)を特に掲げていないときは、これらの権利は譲渡した側に留保されたと推定されます(同条2項)。著作者人格権は譲渡できないので(同法59条)、権利を移すときは、人格権を行使しない旨を別に定めます。他方、利用の許諾を受けた人は、許諾に係る利用方法および条件の範囲内でだけ、著作物を利用でき(同法63条2項)、その利用権は著作権者の承諾を得なければ譲渡できません(同条3項)。
研修資料の権利を三つに分ける
講師・研修会社が以前から持つ教材とノウハウ
- 帰属
- 受託者に留保する
- 顧客の利用
- 研修の実施・確認・社内の記録保存に必要な範囲で、非独占で、再許諾を認めない利用を許諾する
顧客の依頼と費用で新しく作った成果物
- 帰属
- 報酬の支払いが済んだときに顧客に移すか、受託者に残して利用を許諾するかを選ぶ
- 移す場合
- 27条・28条の権利を特掲し、人格権の不行使を定める。既存部分と組み合わせた成果物は、既存部分の権利を除く
顧客が提供した資料
- 帰属
- 顧客に帰属する
- 受託者の利用
- 業務の目的の範囲に限る。研修後に不要となった資料は返却または消去する
三つの区別がないと、既存の教材が新しい成果物に混ざった瞬間に、その部分の権利が誰にあるかが分からなくなります。
特に注意したいのが、「顧客の費用で作ったのだから、すべて顧客のもの」という前提です。新規に作った成果物の権利を顧客に移す契約でも、受託者が以前から持つ教材、ひな形、ノウハウは移さない、と書いておかないと、受託者が次の顧客に同じ教材を使えなくなります。この区別は、教材の権利と生成AIのページで述べた、技術と技術体系の区別とも通じます。
録画と撮影:誰が、何のために、どこまで
オンライン研修や対面研修の録画は、顧客から求められることも、受講者が個人的に撮ろうとすることもあります。契約書では、録画について次のように決めておくと整理できます。
- 録画の禁止が原則:顧客と受講者は、研修の録音・録画・撮影、画面の保存をしない。研修会社が顧客の要望で録画する場合は、個別に条件を定める。
- 録画する場合の用途と期間:録画を欠席した受講者の復習に限る、社内の研修だけに使う、一定の期間後に消去する、といった用途と期間。顧客の社外や関連会社には渡さない。
- 講師・登壇者の同意:録画には講師の映像・音声が入る。研修会社が講師に再委託している場合は、録画の利用について講師と研修会社の契約でも定めておく(講師業務委託契約書)。
- 受講者への周知:顧客が受講者に、研修資料と録画の複製・転載・再配布を禁止する旨を示す措置をとること。
なお、録画の禁止を書く理由の一つは、受講者が業務のために行う複製が、私的使用のための複製として認められる範囲(個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内での使用。著作権法30条1項)に収まらないと考えられることにあります。会社の研修として録画し、社内で共有する行為は、通常この範囲を超えるので、契約で定めておく必要があります。
書き方の例(一般的な例) 研修資料の利用範囲
利用の許諾
「受託者は、委託者に対し、研修資料を自由に利用することを許諾する。」
「受託者は、委託者に対し、研修資料を、本研修の受講者が本研修及びその復習のために社内で利用する範囲に限り、非独占的に利用することを許諾する。委託者は、研修資料を複製、改変、再配布、第三者への開示又は他の研修への転用をしてはならない。」
ねらい「自由に」では、他部署・関連会社・他の研修への転用が含まれ得る。範囲と禁止行為を具体的に書く。
権利の移転
「成果物の著作権は、委託者に帰属する。」
「本業務のために新たに作成された成果物(受託者の既存の著作物を除く)の著作権(著作権法27条及び28条の権利を含む。)は、報酬の全額の支払いが完了した時に、受託者から委託者に移転する。受託者は、著作者人格権を行使しない。受託者の既存の著作物の権利は、受託者に留保される。」
ねらい移転の時期を報酬の支払いに結びつけ、27条・28条を特掲し、既存の教材を除く。
助成金を使う研修:記録、調査への協力、不支給のときの報酬
企業が従業員に研修を受けさせるときに、国や自治体の助成金(従業員の能力開発のための訓練を行う事業主に対するものなど)を活用することがあります。助成金の要件は、制度ごと・コースごとに所管の行政機関が定めており、内容は改正されることがあります。ここでは、制度の中身には立ち入らず、研修の受注契約の書き方に絞ります。
助成金を前提にした研修を受注する側は、自社の研修が、顧客の不正な受給の道具に使われないようにしておく必要があります。
- 研修の記録を正確に残す:実施日、時間、場所または方法、受講者の出欠や参加状況、使用した教材。助成金によっては、支給申請の際に訓練の実施状況を示す書類の提出が求められるため、顧客が必要とする記録を、研修会社が提供できる形で残す。
- 実態と違う記録をつくらない:実施していない研修を実施したように書く、受講していない人を受講者にする、時間を水増しする、といった記録の作成や、それに加わる依頼を受けないこと。契約書に「実態に基づく記録に限る」旨と、不正な記録の作成の依頼に応じない旨を書く。
- 調査への協力:行政機関から顧客に調査があったとき、研修会社が記録の提出などに協力する義務と、その費用の負担。協力の範囲は、研修会社が保有する記録に限る。
- 不支給のときの報酬:助成金が支給されなかったこと、または減額されたことは、研修の対価である報酬の支払義務に影響しない、と明記する。助成金の支給の有無で研修の対価を左右する書き方は、研修の対価と助成金の申請を結びつけすぎる。
- 申請手続は顧客の責任:助成金の計画届や支給申請は、顧客が行う手続であって、研修会社が申請書を作成・提出する業務ではない、と書く。
最後の点について補足します。労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成や、その提出に関する手続の代行は、社会保険労務士の独占する業務で、社会保険労務士または社会保険労務士法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得て、これらの事務を業として行うことは禁じられています(社会保険労務士法2条1項1号・1号の2、27条)。したがって、研修会社が「助成金の申請まで一括で請け負う」と書くと、この業務の制限に触れるおそれがあります。研修会社にできるのは、研修を実施し、実施の記録や受講者の出欠などの資料を顧客に渡し、一般的な制度の案内をするところまでです。契約書にも、申請書の作成や提出の代行は、業務の範囲に含まれないと明記しておくのが、依頼を受ける側の安全な線引きになります。
- 委託者は、本研修について助成金その他の公的な給付を利用する場合、その要件の確認及び申請の手続を、自己の責任で行う。受託者は、申請書類の作成及び提出の代行を行わない。
- 受託者は、委託者の求めに応じ、本研修の実施日時、方法、出欠その他の実施の状況に関する記録を、実際の実施の状況に基づいて作成し、提供する。受託者は、実際の状況と異なる記録を作成しない。
- 行政機関から委託者に対し調査があったときは、受託者は、受託者が保有する記録の範囲で、これに協力する。
- 助成金その他の給付が支給されなかったとき、又は減額されたときも、委託者の報酬の支払義務は影響を受けない。
助成金の要件や記録の保存の取扱いは、制度とコースにより異なります。契約書には制度の中身を書かず、顧客の責任と研修会社の提供する記録の範囲を書くのが無理のない方法です。
受講者名簿・アンケートの個人情報:委託として整理する
研修を実施するには、顧客から受講者の氏名や所属、アンケートの回答を受け取ります。これらは個人情報で、データベースになっていれば個人データです。顧客は、個人情報保護法の個人情報取扱事業者として、これを研修会社に渡すことになります。
個人データを本人の同意なく第三者に提供することは原則として禁止されていますが(個人情報保護法27条1項)、利用目的の達成に必要な範囲内で、個人データの取扱いの全部または一部を委託することに伴って提供される場合は、提供を受ける者は第三者に当たりません(同条5項1号)。研修の運営のために受講者名簿を研修会社に渡すのは、通常この委託に当たる整理ができます。委託をした顧客は、委託先に対し、必要かつ適切な監督を行わなければなりません(同法25条)。そこで、顧客から契約書に、委託先としての義務を求められるのが通常です。
| 事項 | 書く内容 | 研修会社の側の注意 |
|---|---|---|
| 取扱いの範囲 | 研修の実施・運営・結果報告に必要な範囲に限る。他の目的には使わない | 営業やメールマガジンへの登録など、目的外の利用はしない。したい場合は顧客と別に合意する |
| 安全管理 | 漏えい、滅失、毀損の防止のための措置(個人情報保護法23条)。アクセスできる人の限定、持ち出しの制限 | 講師にデータを渡す場合は、渡す範囲を最小にし、講師にも同じ義務を負わせる |
| 再委託・講師への受渡し | 講師や外部の協力者に渡す場合は、顧客への事前の通知または承諾を条件とする | 再委託先の監督は研修会社の責任。講師との契約に守秘と個人情報の条項を置く |
| 事故の報告 | 漏えいなどの事態を知ったときは、速やかに顧客に報告する | 個人データの漏えい等で個人の権利利益を害するおそれが大きいものは、委託元への通知の仕組みがある(同法26条1項ただし書)。通知先と期限を決めておく |
| 終了後の返却・消去 | 研修の終了後、一定の期間内に、データを返却または消去し、消去したことを報告する | アンケートの集計結果など、顧客に納めた成果物に含まれる情報は別に整理する |
研修会社が、受講者のアンケートを使って自社の事例集や宣伝を作りたい場合は、委託の範囲を超えます。顧客の名称、研修名、受講者の感想や写真を実績として公表することは、顧客の承諾を得てからにし、契約書にもその旨を書いておきます。顧客の側でも、受講者に対し、研修会社に個人データを渡すことを含めた利用目的を伝えておくことが前提になるので、研修会社は、顧客がそれを行っているかを、契約の前提として確認しておくと安全です。
顧客の都合の中止・延期と、報酬・準備業務の扱い
研修は、日程が決まってから実施までに準備が積み重なります。顧客の都合で直前に中止や延期になったとき、講師の時間は他の仕事に振り替えられず、準備もすでに済んでいます。この場面の扱いを、契約書で決めておかないと、民法の一般原則に頼ることになります。
民法は、債権者(研修を依頼した顧客)の責めに帰すべき事由によって債務を履行できなくなったとき、債権者は反対給付の履行(報酬の支払い)を拒めないと定めます(民法536条2項)。委任については、各当事者がいつでも解除できますが、相手方に不利な時期に解除したときは、やむを得ない事由がある場合を除き、損害を賠償する必要があります(民法651条)。中途で終了したときは、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できます(民法648条3項)。契約書でこれらを具体的な数字と段階に置き換えるのが、キャンセル料の条項です。
| 時点 | 取扱い | 書く際の注意 |
|---|---|---|
| 実施日から一定の日数以前の中止 | 準備業務の報酬と、受託者が負担した取消不能の費用の実費 | 準備業務(教材作成、研修設計)がすでに終わっていれば、その分の報酬を払う旨を別に書く |
| 実施日の直前の中止 | 報酬の所定の割合のキャンセル料を払う | 割合は研修の規模と準備量に応じて段階を設け、「所定の割合」と表で示す。「違約金」と定めると賠償額の予定と推定される(民法420条3項) |
| 実施日の当日の中止、無断の不参加 | 報酬の全額 | 当日の定義(開始後の中止を含むか)を決める |
| 延期 | 同じ受託者が代わりの日に実施するなら、キャンセル料は払わない。ただし、延期の回数と期限を決める | 延期後も実施できなかったときは、延期前の日にキャンセルしたものとして扱うか決めておく |
| 受託者の都合の中止 | 報酬は払わない。代わりの講師の手配に努める | 不可抗力や、講師の急病など責めに帰すことのできない事由は、別に扱う |
表の日数や割合は、研修ごとに異なります。契約書には具体的な数字を置き、「一定の日数」「所定の割合」を本文に残さないようにします。
キャンセル料の算定にあたり、顧客が受講者から参加費を受け取っている場合は、顧客の側から「受講者から回収できなかったので減額してほしい」と求められることがあります。顧客と受講者の間の事情は、受注者には関係がないので、契約書に「キャンセル料は、顧客と第三者の間の事情にかかわらず、本契約に定めるところによる」と書いておきます。研修会社が、顧客のキャンセル料を回収できたことを条件に講師への報酬を払う、といった連動を設けるときは、顧客と講師の双方の契約でその条件を明示しておく必要があります(講師業務委託契約書)。
最少催行人数のように、中止の基準を契約で決めておきたいときも、基準日、通知の方法、費用の負担を、顧客との契約で明示しておくのが前提です。企業研修・法人向け講座のページで述べた、申込みの規約の構成を参考にできます。
受注者が個人・小規模のときに知っておきたいこと:取引条件の明示と支払期日
講師が個人の事業主で、従業員を使用していない場合は、顧客企業との研修の委託が、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)の対象になり得ます。同法の特定受託事業者は、業務委託の相手方である事業者で、個人で従業員を使用しないもの、または一人の代表者以外に役員がなく従業員も使用しない法人です(同法2条1項)。研修の実施を事業者に委託することは、役務の提供の委託に当たります(同法2条3項2号)。
この場合、業務委託事業者(顧客)は、直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法で明示しなければなりません(同法3条1項)。従業員を使用する事業者などの特定業務委託事業者には、受領した日から60日以内かつできる限り短い期間内に報酬の支払期日を定める義務もあります(同法4条1項)。受注する側は、顧客が研修の委託の条件を明示してくれない場合に、この規定を根拠に、条件の明示を求められます。契約書には、実施日時と場所、研修の内容、教材の作成の有無、報酬と支払期日、キャンセルの扱いを、依頼のたびに明示する形にしておくと、同法の明示の義務にも対応しやすくなります。
他方、研修会社が顧客から研修を受注し、その一部を講師に再委託するときは、研修会社が業務委託事業者の側になるため、講師との契約には、同法の明示と支払期日の定めが関係します。この再委託の側面は、講師業務委託契約書のページで述べています。
確認したい問いと、その理由 研修の業務委託契約を結ぶ前に
研修は、実施だけか。テキスト・動画・報告書の納品も含まれるか。
準委任と請負的な部分を分けて、報酬と検収を決めるため。
研修資料は、既存の教材か、顧客のために新しく作るものか。顧客は資料を社内でどこまで使うつもりか。
権利の留保、移転、利用許諾の範囲を決めるため。
録画の希望はあるか。欠席者に見せる予定はあるか。
録画の用途、期間、講師の同意を決めるため。
助成金を使う予定か。申請は誰が行い、どの記録が必要か。
記録の提供の範囲と、不支給のときの報酬の扱いを決めるため。申請の代行は引き受けない前提で整理する。
受講者の名簿やアンケートは、誰から誰に渡るか。講師に渡すか。
委託としての取扱い、再委託、事故の報告、消去の時期を決めるため。
顧客の都合で中止や延期になったときの日程と費用の扱いを、顧客は理解しているか。
キャンセル料の段階と、準備業務の報酬を、契約の成立前に明示するため。
よくあるご質問
研修は準委任と請負のどちらで契約すればよいですか?
研修を実施する業務は準委任(民法656条)を主軸にするのが一般的です。受講者の理解や行動の変化は、研修を行う側が完成を約束できる結果ではないためです。テキスト、台本、動画、報告書のように納めるものがある部分だけを請負的な部分として切り分け、納品と検収の手続を書きます。成果を保証しない旨と、顧客の協力義務もあわせて書いておきます。
研修資料の著作権は、報酬を受け取れば顧客のものになりますか?
当然にはなりません。著作権は契約で移転しない限り受託者に残り、顧客は許諾を受けた範囲でだけ利用できます(著作権法63条2項)。権利を移す場合も、27条・28条の権利を特掲しないと、これらは譲渡した側に留保されたと推定されます(61条2項)。以前から持つ教材は移さない、新しく作った成果物だけを支払いの完了時に移す、という区別を書いておくと安全です。
助成金を使う研修で、申請書の作成も請け負ってよいですか?
労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成や提出の代行は、社会保険労務士の業務で、資格のない者が報酬を得て業として行うことは禁止されています(社会保険労務士法27条)。研修会社の契約書では、研修の実施と、実施の記録の提供を業務とし、申請書の作成・提出の代行は業務の範囲に含まれないと明記する方法が無理のない線引きです。
顧客から受け取った受講者名簿を講師に渡してよいですか?
顧客が研修の運営のために研修会社に渡す名簿は、個人情報保護法上の委託として整理できます(27条5項1号)。委託を受けた研修会社は、安全管理の措置をとり、再委託先となる講師にも必要な監督を行います。講師に渡す範囲を最小にし、講師との契約にも守秘と個人情報の条項を置き、事故のときの報告先と、終了後の消去の時期を決めておきます。
顧客の都合で直前に研修が中止になったとき、報酬はどうなりますか?
契約書の定めによります。定めがなければ、顧客の責めに帰すべき事由で履行できなくなったときは報酬の支払いを拒めず(民法536条2項)、準委任の中途終了では履行の割合に応じた報酬を請求できます(民法648条3項)。実際には、中止の時期に応じた段階と、準備業務の報酬、取消不能の実費の扱いを、契約の前に表で示しておくのが確実です。
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